2002年11月1日(金)読了
黒木亮の”トップレフト”を読んで、経済を知りたくば経済小説を読むのがイチバンだと思い、購入した小説。
展開は面白く、ドラマティック。しかし、積み重ねが甘く現実と遊離した感じで、やっぱしょせん”おはなし”なんだな。
この小説に「リアルさ」を求めようとすると失望するだろう。日本の銀行界、政府、文化に対する批判はまるで、週刊誌の記事のようだ。そう思った理由は2点ある。
復讐に燃えた女性バンカーが八方手を伸ばして都銀上位行である康和銀行を崩壊させるというのが、あらすじ。
女性バンカーはやんごとなき家の出で、頭脳明晰容貌秀麗で三十代で米銀取締役に就任し、そこから父と愛する人を殺した康和銀行に対する復讐がはじまるわけだが、正直言って、女性バンカーにぜんぜん思い入れする気になれない。
たとえは変かもしれないが、TVアニメ「エースをねらえ!」に登場したお蝶婦人みたいだ。「あっ、すげえな」とは思うけど、そんな現実離れした人の話を聞いても実感がわかない。
康和銀行そのものは腐敗しきった銀行で、それを物語の上で批判するのはおかしくないが、そうさせた大蔵省が悪い、それを許した日本が悪い、さらには女性を差別するのはおかしい、とどんどん作者の非難の輪が大きくなり、拡散してしまう。
読むほうからすると「言っていることは正しいけど、だからなんなの?」という感じになる。
この作者は執筆中に加熱してしまい、読者を途中で追い越してしまったのかもしれない。