2002年8月24日(土)読了
太平洋戦争中、香港の戦時憲兵であった守田軍曹の逃亡記。
戦時憲兵は軍隊の規律取締りのほか、住民の監視、防諜活動をおこなうミッションをもった兵科で、民間人に接する機会が多く、憎しみの対象となることが多かったため、敗戦時は住民からのリンチなど悲惨な運命をたどることが多かった。
この小説の表面は香港->収容所->自宅->逃亡->巣鴨プリズンという逃亡日記であるが、前半の戦時中の悪逆非道の回想、後半の収監後は国家の命に従ったのにも関わらず、なぜその国家に捌きを受けねばならないのか、という懊悩の日々が綴られている。
この小説は一種の冒険小説であるが、戦争の加害者を単純に「加害者」として断罪することを危険を考えさせてくれる。
あとがきを読むと主人公の守田軍曹は作者の父がモデルになっていることがわかる。自身は小説中で、逃亡中に誕生した次男だろうと思われる。ひさびさに一気に読んでしまった小説。