この数日、風邪を引いていて、仕事は休まなかったものの、赤提灯は自粛し、
極力、寝るようにしていました。
仕事していて、お昼過ぎから足がガタガタ震えるので、「かぜひいたなぁー」と
思い、仕事を切り上げ定時退社。
ぼくは風邪をひくと、寝込む前に本屋に立ち寄り、買いだめしておく習性があります。
その日も帰宅前に、さむけのする体で吉祥寺駅前の本屋に寄り、本を調達しておきました。
今回は、第二次大戦のビルマ戦記を2冊買いました。
先週、ニコニコ動画で軍歌を聞いて感動したことを書きましたが、それも影響
しているのかもしれません。
本屋でこの背表紙を見たとき、父が遠縁に
インパール作戦で戦死した人がいると言っていたことが思い出されました。
本は
「菊兵団ビルマ死闘記 ~栄光のマレー戦から地獄の戦場へ~」by 前田正雄
「ビルマ戦補充兵 ~菊兵団兵士が見た地獄の戦い~」 by 吉田悟
の2冊です。
4つの観点で興味を持ちながら読み進めていきました。
ひとつめは冒険小説としての観点です。悲惨な体験をした方々が存命中なので、非常に失礼な言い方なのですが、戦いがどのように推移していったのかを知る楽しみです。
でも、ぼくはビルマの戦いの基本的な知識があったので、この観点から新しい発見はありませんでした。
30万人の兵士がビルマに送られ、帰国できたのはその半数に満たず、残りの兵士たちは”戦死”よりも餓死、衰弱死を余儀なくされたという事実を知らない人は十分、この観点から読む価値があるでしょう。
二つめは、特に第二次大戦の戦記物につきもののテーマだと思うのですが、「なぜ、こんな悲惨な戦いをしたのか」という点です。
著者達も、作戦のための作戦を指向した愚かな上層部、兵站線の軽視、制空権の欠如、精神論の過剰な重視etc...を語っていますが、どれも他の第二次大戦戦記物、歴史本に見られるもので、新鮮さはありませんでした。
このテーマは中学生時代に歴史の授業を受けてからずっと心の奥に引っ掛かっているのですが、納得できる回答はなく、ぼく自身、理解しようとすること自体をあきらめかけています。
本を読んだり、テレビでドキュメンタリーを見て、知識が増えるたびに、敗戦という大失敗は、恐ろしいほどの量の小さな愚かさ・失敗の集積に、説明することのできない”運”が作用した結果なんじゃないかと思うようになりました。
こういうことを言うと、理科系の友人たちには「運命論者」と馬鹿にされてしまうのですが、実際、そうなんじゃないかと思っています。
三つめは、同じ戦いを同じ兵団の違う階層の兵士がどう見ていたのか、
というのに関心を持ちました。
前田氏は陸軍大尉、吉田氏は陸軍曹長であり、
会社で言うと中間管理職と現場営業といったところでしょう。
前田大尉は士官なので、多少幅広く戦いの推移を描写していますが、
二人の戦場描写は共通している部分が多いのが特徴でした。
軍隊に限らず、会社でも階層があがればあがるほど、現場の温度感はわからなくなっていくものですが、ビルマ戦においては、下級兵士から士官に至るまで死力を尽くして戦い、同じように飢餓・病気と闘いながらジャングルを徘徊していたせいでしょう。他の戦記ものと比較して、中隊長、大隊長、連隊長といった幹部クラスの戦死者が異様に多いように感じられました。
組織にありがちな弱い者いじめや、上官に対する不満などは見られず、戦時中の菊兵団は上から下まで、うらやましいほど一体感の強い組織だったのだと感じました。
もっとも菊兵団は大陸に進駐していた日本軍の中で最強をほしいままにしていた軍団であることと、仲間割れをしているヒマのないほど、激烈な攻勢に対峙していたことも一体感を強固にした原因だと思います。
四つめは、ぼくが一番、興味をもった点なのですが、
「ほとんどが生きて帰れない戦場で、なぜこの二人が生き残れたのか」という点です。
特に前田大尉は機関銃中隊という最も攻撃性が高く、それゆえ敵から狙われやすく死傷率の高い部隊にいながら4年間部隊の全作戦全戦闘に参加しています。
その上、ビルマの2年間で、機関銃中隊は定員の2倍を超える戦死者を出しています。
つまり一年に一度、隊員が全滅してしまうほどの過酷な状況で生き残っているわけです。
吉田軍曹も同じで何度も間一髪で死地を脱出しています。
なぜ生き延びられたか?
の回答のひとつは恐ろしいほどの強運の持ち主だったということでしょう。
”強運”以上にぼくが感じたのは、彼らがどんなに不利な状況にあっても任務に対するひたむきさと、生への執着を失わない事でした。
読み進むにつれ、彼らのその日その時の感情が憑依してきます。
悲嘆、恐怖、喜び、空腹 etc..といった感情はあるのですが、決して”絶望”はないのです。
15倍の兵力、さらにその10倍以上の火力をもつ敵と対峙しながら、
彼らは絶望感を持つことなく懸命に闘い、逃げ、生きようとし続けるのです。
敵戦車隊から包囲寸前になり、手元にあるのは小銃と手榴弾だけという状況で、部下たちは「ここで玉砕しましょう!」と言います。
しかし前田大尉は、玉砕を美徳とする旧陸軍の中で、
「玉砕はいつでもできる」と言い放ち、死地からの脱出を試みるのです。
今後、私たちがビルマ戦のような悲惨な状況に陥る可能性は少ないでしょう。
でも、日本には年間数万人、自ら命を絶つ人々がいます。
親からもらった命を全うするには、生命への執着と希望がどれほど重要かを感じた本でした。