表題作をはじめ、他7編で構成される短編集。
どの短編も密度が濃く、読み応えアリ。
ぼくが好きだと思ったのは、「張込み」、「鬼畜」、「投影」の3編だ。
「張込み」は、平凡な生活から、非日常的に足を踏み入れようとする殺人犯の元恋人を、張り込み中の刑事がおしとどめようとする。
ラストで「いますぐ帰りなさい、今ならご主人の帰宅に間に合いますよ」と言う刑事がとてもかっこいい。
「鬼畜」は悲しい物語だ。妻から愛人との子たちを処分するよう言われた男は、こどもを旅行に連れ出し、捨てようとする。何もしらないこどものあどけない顔を見るととても、殺すことなんてできないと思う。でも妻にはさかられない。罪を犯した後、それでもこれで女房に責められることはない、と思うとほっとするのだ。人間の弱さ、悲しさをよく描いていると感じる。
「投影」は清張には珍しく痛快な物語で、青春映画のようなテイストを感じさせる。大手新聞社を放逐された記者が、恋人とともに瀬戸内海の某市にいき、そこの弱小新聞社の記者として市の不正を暴くというストーリーだ。事件が終わった後、記者は恋人と東京へ戻っていく。さわやかな読後感。