2002年4月10日(水)読了
「死国」、「狗神」、「葛橋」 などの作品で有名なホラー作家 坂東真砂子の自伝小説である。
筆者は現在タヒチで暮らしている。今の生活の中で、幼少から大学時代までを回想している、ひたすら暗い自伝。
クラーく家庭生活、学校生活をネチネチと書き綴っている。
暗闇ばかりに目をとられているが、坂東真砂子の人生は、不慮の事故だとが、家庭内暴力などとは縁遠い、ごく普通の女性がたどっているものだ。
どこかの女性漫画家が自伝小説に父親から犯された体験を書いていたが、そういう読者をあっと驚かすイベントがあるわけではない。地方のちょっと貧しいがごく普通(将来有名作家になるということを除けば)の女の子の人生である。
それをここまで暗く書けるとは...
心理学的に言えばなにをするにも実感がわかず、情景をテレビ画面を通してみているようにしか感じられない離人症の症状を呈している。概して思春期にはありがちな症状だけど、幼稚園の時から40歳(たぶん)をすぎた現在まで続いているというのは普通でない。
ぼくは今までの人生を楽しいものだったと考えている。しかし、冷静に視点をその時代に移してみると、そんなに楽しいものではなかったのかもしれない。
幼い兄弟がなかよくじゃれあっているように見えても、彼ら自身は「母親からもっと注目されたい」、「こいつにはたかれるのはプライドが許さない」といった動物的闘争本能に支配され、シビアな戦いをしているものだ。
ところが、大概の辛い思い出も「よく喧嘩したけど楽しかったな」と普通の人は思ってしまう。この作家のこころの中に過去を美化する「装置」は存在しないようだ。
読後感の悪い読み物なので坂東真砂子ファンで彼女をもっと知りたい、だとか心理学に興味があるという人以外にはすすめない。